先日、勤務している会社の経営者と「今年の忘年会はどうなるのか」という話題になった。話題になったというか、是非もないことで、昨年忘年会があったその日に次の年の分を早々に予約していくのが通例なので、既に日時等は決まっているわけだ。
暫く続いたコロナ禍のせいで数年間開催しなかった忘年会だが、昨年は数年振りにホテルで大人数での会になった。
しかしまだまだ新型コロナの感染の脅威は持続しており(少なくともうちの会社ではそういう認識だ)、上役へのお酌や余興、抽選会等は一切行われなかった(そういえば抽選会はちょっぴりだけあった)。
普段はホテルの食事をゆっくりと堪能するどころか、コースで何が出てきたのかすらわからなくなるくらいに慌ただしいのだが、僕にとっての20回目の忘年会は、恐らく初めてゆっくりと腰を落ち着けて食事と飲み物を堪能することができた会だったように思えている。
大体経営者と同じテーブルに配置されるため、普段の仕事の喧騒から一定の距離を置いたような穏やかな歓談が出来たことも嬉しかった。
周りが静かだったから、経営者達も例年よりうんとにこやかな笑顔だった気がした。
忘年会の締めの挨拶を、うちの経営者は僕に依頼する事が多い。
数年前に執り行われた創立30周年記念式典の締めも任された。
僕は言ってみればまあまあ大きなうちの会社組織の中の支店長のような立場(厳密に言うと違うが極めて明瞭な表現をすればそうなる)なので、毎回毎回その役割が回ってくるというほどのものではないのだが、経営者の真意は分からないと言えば分からない。不自然と言うほどではないのだが・・・僕も深く考えてはいないし、恐らく周囲の幹部たちも他の職員たちも同様だろう。
不得意ではないから特別嫌ではないし、寧ろ(全員が参加する訳ではないにしろ)200人を超える社員たちの前で何らかのアウトプットが出来る機会を得られると考えればプラスの要素が多いと思っている。
数年前に他所の部長が挨拶を任されていた時、会の半ば位に裏でメモ紙を見ながらブツブツと何かを呟いているところを発見した。
「なにをしているんですか」
と声を掛けると、
「挨拶をしなければいけないので・・・覚えているんです・・・。」
と顔を真っ赤にして言っていた。加えて、酔いを回さないと緊張してしまうのでお酒も沢山飲んだとのことだった。普段は不遜な男なのに、こういうのは苦手なんだなと思い気の毒に思った。こういうのは、普段の性質とはまた全く別物だということなのだろう。
・・・なんにせよ、他の幹部たちは大体こういったことは嫌がる傾向にあるのかもしれないと、その時初めて感じたのを覚えている。
折角社員たちの前で一年の終わりに話をするのだから、何か捻りのある話をしたい。
僕が毎回思うのはそういうことだ。
「一年間お疲れさまでした」
「来年も力を合わせて頑張りましょう」
そんな常套句を並べても面白くもなんともないし、わざわざ壇上に立って言うほどの事でもない。ありふれた言葉を集めて並べても何の意味も為さないように思える。
数年前はAmazon創設者のジェフ・ベゾスの話をした。極めて尊敬する人物だし、Amazonが現在のような成功を収める過程は非常に面白いものだと思っている。
そして前回は「A rolling stone gathers no moss(転がる石は苔を集めない)」という諺(ことわざ)を使って話をした。
ローリングストーンズのトラック集のタイトルとしても使用されているイギリスの古い諺(ことわざ)で、昔から僕の好きな言葉(言い回し)のひとつだ。
イギリスでは「頻繁に住所や職業を変える人は大成しない」といった意だが、海を渡ったアメリカにおいては「活発に活動し、常に精進しようとする人は古くならず新鮮でいられる」といった解釈になっている。両国のマインドの違いだろうが、僕は後者を取っている。
科学や工業技術などと一緒で、人の意識や民度、そして社会的に正しいとされる尺度のようなものもまた一どころには留まらないものだと思っていて(諸行無常というと若干大袈裟なので有為転変と言っておこう)、「自分は自分だ」等と頑固に構えているといつの間にか時代錯誤になってしまう。「正しさ」という観念も時代と共に移り変わっていくものなのだ。・・・と思っている。
「来年は留まる石ではなく、動き続ける一年にしましょう」
面白いかどうかは分からないけれど、変化球のような挨拶にはなったのではないだろうか。割と、そういう非常套句的な表現を混ぜた方が人の耳はこちらに向くものなのだ。
尊敬する上司から「数年前の自分の仕事を思い返した時、恥ずかしいと思うのが普通だ。常に昨年の自分よりも自らが高まっていれば自然とそう思うものだ」と何回か聞いたことがある。初めて聞いたときは目からウロコだったし、まさしく「A rolling stone gathers no moss」だなと感じた。
今年以降、暫く歳の締めの挨拶は回ってこないのではないかと思っている。根拠はないが、何となくそういう確信がある。
いつかまた、そういう機会があれば、聞く人の心に残る話をしたいものである。
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