※前編はこちらから
祈り~涙の軌道
見慣れた場所が違う顔して見えるのも
本当は僕の目線が変わってきたから
純粋や素直って言葉に悪意を
感じてしまうのはきっと僕にもう邪気があるんだね
出典:Mr.children 祈り~涙の軌道 歌詞:桜井和寿
「祈り~涙の軌道」は2012年にリリースされたアルバム「an imitation blood orange」の収録曲。・・・とはいってもシングル曲でもあります。
前編で「シングル曲以外の隠れ名曲を」と言っていましたが、今回のコンセプトからこれだけは外したくなかったのでご容赦を(あまりセールスが芳しくなかったので知らない方も多いはずではあります)。
この曲全体のテーマはまさしく「大人になると物事の感じ方は変わっていくもの」ということ。そして「人生を歩む度に失いたくないものが少しずつ少しずつ増えていって、思い切れない、思うがままに生きられなくなるけれど、それでも希望や願いを持ち続けて生きていきたい」といった感情だと思います。
似たような表現を別の曲の歌詞でも度々見かけるので、桜井氏の脳裏に強くある感情なのではないかなと推察していますが、大人なら誰しも抱いている想いなのかもしれません。
Mr.childrenは押しも押されぬ国民的ミュージシャンですが、一般社会で生きている私達の抱く感情を代弁してくれる存在なのです。
Pieces
軌道を逸れて放り出された
夢が夢が萎んでいく
どこかに不時着しようかって頭をかすめる
粉々になったら匂いに紛れて
君の元へ飛んでいくから
その時は思い切り吸い込んでよ
出典:Mr.children Pieces 歌詞:桜井和寿
「Pieces」は祈り~涙の軌道と同じく アルバム「an imitation blood orange」の収録曲。このアルバムは、Mr.childrenにとって一つの区切りとなった「REFLECTION」の前夜的なタイミングでリリースされたアルバムで、誤解を恐れずに言えば全体に漂っている雰囲気は「殻を破る前のもやもやとした閉塞感」のような気がします。フワフワとしたすっきりとしない曲が多く、事実これといったヒット曲も収録されていません。
しかし、だからこそこのPiecesの存在が際立つのではないかと思っています。
これ、歌詞を良く見てみると極めて名曲。でも地味で分かりにくく、何度か繰り返して聴いていくと段々と良さが分かるもののような気がします。
自分(若しくは自分が抱いている夢)をPieces(かけら)に例え、人生のもどかしさや立ち戻れない儚さを表現しています。
引用部では、もしも夢に破れても欠片は残すから、せめてそれを吸い込んで君の一部にしてよという一縷(いちる)の希望を述べています。美しく儚い、桜井氏らしい表現が光るフレーズだと感じます。
皮膚呼吸
皮膚呼吸して
無我夢中で体中に取り入れた
微かな酸素が
今の僕を作っている そう信じたい
このまま
切なさに息が詰まった時が それを試すとき
出典:Mr.children 皮膚呼吸 歌詞:桜井和寿
「皮膚呼吸」は2018年リリースのアルバム「重力と呼吸」の収録曲。
NTTドコモの25周年ムービー(伝説的に素晴らしいムービーなので是非見て欲しい)のエンディングで流れた未発表曲こそがこの皮膚呼吸なのですが、その事実を鑑みると、どれだけMr.childrenにとって大事な位置付けの楽曲であるのかということは分かる気がします。
「深海」や「潜水」「擬態」等、海や呼吸に関する曲が多いのもMr.childrenの特徴ですが、「重力と呼吸」は(基本的に)完全セルフプロデュースに舵を切ったアルバム。人が生きている証である「呼吸」がこのアルバムの一つのキーワードになっています。
トリに収録されているこの皮膚呼吸は、今まで自分たちが走ってきた軌跡をかみしめつつ、これから歩んでいく途上に構える困難にも負けないという強い信念を表現しているように思えます。
良い歳した大人でも、まだ何かに挑戦することも出来る。自分が歩んできた道程を信じて、一歩踏み出すことができるはず。・・・そんなポジティブな気持ちにしてくれる一曲です。
The song of praise
誰も一人じゃない
きっとどこかで繋がって
この世界を動かす小さな歯車
誰も一人じゃない
だからどっかでぶつかって
この世界で藻掻く小さな
そう小さな歯車
出典:Mr.children The song of praise 歌詞:桜井和寿
2020年に発表されたアルバム「SOUND TRACKS」は「新しいMr.children」へと脱皮した彼等がその時点での最高傑作と表現したアルバムです。
以前のMr.childrenのようなポップな分かりやすさは鳴りを潜め、ロック色とストレートな歌詞が前面に押し出されている。これが彼等の本来の姿なのだろうか。そんなことを思いながら聴いていました。
件(くだん)の「The song of praise」は朝の情報番組のテーマ曲になっていて、前向きなフレーズが力強く家を出る前の私達の背中を押してくれた曲なのではなかろうかと思っています。
20代くらいの頃、まだまだ自分には限りない可能性があって、何者にもなれる、何だってできると思っていました。
30代になると少しずつ未来(さき)が見えてきて、自分の才能の限界も自覚できてくる。知らぬうちに社会を動かす歯車の一部になっていっている(ならざるを得ない)自分自身に気付きます。
40代になると、20代の頃「何者でもなれる可能性がある」と考えていた自分の身の程知らず加減を恥ずかしく感じてため息をつき、身の丈を思い知って歯車の一部として生きていくことを受け入れます。
私のこれまでの人生は凡そそんな感じでした。
誰もがそうやって諦めや失望を抱きながら生ている。けれども一人じゃない。誰かと繋がりながら、守り守られ生きていく。歯車の一部であることは恥ずべき事じゃない。それぞれの凡庸さが集まって世界は動いている(世界を動かしている)のだから。
・・・そんな風に解釈しています。
おはよう
明日は今後のカギになる大切な仕事があるから
今日はこの辺にしておこう
ありがとうね おやすみ
おはよう
これからはいつだって君がいる
おはよう おはよう
おはよう おはよう
今日もきっといい日だ
出典:おはよう Mr.children 歌詞:桜井和寿
最後は現時点での最新アルバム(2023年発表)miss you から「おはよう」。
この曲の歌詞については少しだけ考察サイトを見てみたのですが、色々と(良くも悪くも)捻ねた考察が多かったようです。
ただ、私は(極々個人的な見解ですが)この曲に関してはストレートに読んだままの意味で解釈しました。そう。極めて単純明快な愛情表現で溢れた大人のラブソングということです。
根拠は、小林武史プロデュースから離れセルフプロデュースに踏み出してから、桜井氏の書く歌詞は極めてストレートな表現に終始しているからです。
かつて、「LOVE はじめました」という曲の中で
坊主が屏風に上手に坊主の絵を書くというだろう
なら僕は愛している人に愛しているという捻りのない歌を歌おう
出典:LOVE はじめました Mr.children 歌詞:桜井和寿
と謳った桜井氏。愛する人に対して「愛しているよ」と歌うのは簡単だけれども、そんなに単純に表現できる言葉を使うことに何の意味があるのかと皮肉っていたように感じます。
しかし歳を重ね、何周も何周も人生のトラックを周り、今までの自分も全て含めて受け止める。そして、その結果今の自分にとって最も大切なことの一つは明快に、まっすぐに思っている感情を伝える事なのかもしれない・・・。そんな風に思っているのではないだろうか。
だからアルバム「miss you」の締めくくりがストレートな感情表現が前面に押し出された「おはよう」だったのではないでしょうか。・・・そんな風に思うのです。
まとめ
如何だったでしょうか。
実はまだまだ沢山紹介した名曲歌詞は存在しているので、10曲分にまとめるのは大変でした。
回りくどくも秀逸な比喩表現とストレートなメッセージを織り混ぜながら、私達が日々朧気に思い浮かべる秘めたる感情を代弁してくれる桜井和寿氏。
以前も述べましたが、私は勝手に自分の人生はMr.childrenと伴走していると思ったりもしています。人生の中の場面場面に刻まれた曲と歌詞があって、ほとんど常にリンクしているのです。
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