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告白 水俣市出身の私が映画「MINAMATA」を観る

 

告白

私は熊本県水俣市の出身である。

今は地元を離れ、同県内ではあるが違う地域で暮らしている。

両親も水俣を離れ熊本県の他の町のマンションで暮らしており、随分故郷との繋がりは薄れてしまっている。

今では墓があるのと、親戚かどどうかよくわからないくらいの血縁の人達が少しだけ暮らしている位の繋がり。高校生までの友人たちとの繋がりもほとんどなくなってしまった。

別に「故郷を捨てた」というところまで明確な意識を持っているわけではないが。

しかし、私は紛れもない水俣人なのだ。

三大公害病の一つにして筆頭格である「水俣病」がどうだという理由で故郷を離れたわけでは全くない。それは両親も同じ。

しかし、あの町が最後の最後まで好きになれなかったこともまた事実である。

高校までは地元に通い、その後大学に進学するのを機に出来るだけ遠くに行きたかった。

だが様々な理由や事情で県内に残り今に至っている。

 

映画「MINAMATA」が公開

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出典:https://kritikanstvo.ru/movies/minamata/

 

2020年にジョニー・デップ主演の映画「MINAMATA」が公開された。

「ミナマタ」という題名から、水俣市の自然や街並み、各方面から賞賛されているゴミ分別の質の高さ等が題材等という訳では勿論なく、「水俣病」を描いたものであることは万人が見て明らかなことである。

「MINAMATA(水俣)」と聞けば、「水俣病」と、言わなくてもそう連想させるのは容易いことなのだ。

つまり、水俣市は相変わらずそういう存在なのだ。そう痛感してしまう。

2020年の時点で、この映画を観てみようという風には全く思わなかった。

関心が湧かなかったのである。

しかし、サブスクリプションでの公開が解禁されて、自宅での鑑賞が可能になったこの春、私はそれがあたかも必然的な行為であるかのようにこの映画を鑑賞したのである。

 

「MINAMATA」の内容

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出典:Minamata - Film Review - Impulse Gamer

 

「MINAMATA」は、ジョニー・デップ扮するアメリカの写真家ユージン・スミスが熊本県水俣市の取材に訪れ、その地で公害病に苛まれる住民、そして工場(チッソ)の在り様を目の当たりにするといった内容。

ユージンは実際の水俣市で住民達と向き合い、分かりあい、そしてかつての自分の姿や矜持を取り戻していく。

水銀を利己的な理由で垂れ流し、そしてその上力で押さえつけようするチッソに対して、ユージンは葛藤しながらも自分自身の思いをぶつけるに至る。このアメリカ人は異国の小さな村で起こった前代未聞の公害病と、それを取り巻く状況の中に身を置き、生きていく上で本当に大切なことは何なのか覚知するのである。

内容に関しては、「水俣病」という忘れざる水俣市、熊本県、日本で起こった事件の事実・真相を、恐らく世界に向けてリアルに描くことで齟齬のないよう説明しなくてはならないので、分かりやすくも若干のくどさが感じられるものになっているが、ジョニー・デップ、真田広之、浅野忠信、そして國村隼といった質の高い演者たちの至極の演技力で深みが付与されていた。

 

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出典:Red Star Cafe: The Minamata Pietà

 

この映画は実際の出来事に基づいて製作されていることは周知の事実であり、この胎児性水俣病の子供を湯舟に浸けている場面を写した「トモコとお母さん」は実際のユージン・スミスの作品である。

当時の水俣病の残酷さ、凄惨さ、その中で必死に生きた人々の悲哀のイメージを世界中に知らしめた、余りにも有名な一枚である。

 

水俣で育った人間から見た「MINAMATA」の感想

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出典:https://fansvoice.jp/2021/07/07/minamata-teaser/

 

水俣で育った人間から見ても、非常に詳細に取材されていて矛盾な点はほぼなかったのではないかと思う。

非常にセンシティブな内容なので、齟齬は無いように注意深く監修されているのは確かだが、それを含めても感服した。

これだけ時間が経ち、情報量も増え、コンプライアンス意識が変容した現代だからこそ成しえたのだろうとは思うが、それでも残念ながら、未だに核心部に切り込めない部分がある問題なので「行けるところまで行った」というところだろう。

「主演・ジョニー・デップ」は確かにそのネームバリューで「看板」ではあるのだろうが、しかし彼は実際に素晴らしい。その情熱溢れる演技で水俣を表現してくれたことに心から敬意を表したい。

 

水俣で育った人間が「MINAMATA」を観て

私と水俣病

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出典:ニュース記事一覧 | CINRA

 

私は昭和54年生まれで、(決して未だに終わっていない問題なのだが)水俣病の発生からかなり時間が経った時代に生まれてきた世代だ。

私の少年時代に、自分たちの町に「水俣病」という気配は殆どなかった。

大人になってから、水俣病で未だ苦しんでいる方々は市内の某施設に入所して介護されながら生活していることを知った。

だから普段あの町で過ごしていても殆ど患者さんを見かけることはなかった。

というよりも、私は自分の人生で覚えているだけでも2回しか実際に目の当たりにしたことはない。18歳まで水俣市に住んでいたのに、これは異常なことである。

水俣病の学習は、学校の授業に組み込まれたりして最低限叩き込まれるのだが、相変わらず肝心なことは隠されたりもしているのだなと思い幻滅した。

当の水俣人に対してもやはりそんなものなのだ。

時代が違うとはいえ、隠蔽したい、無理にポジティブに捉えさせたいといった意識が透けて見える。

つまり、「水俣病」については、他の県に住んでいる人達よりも「少しだけ知っている」だけなのだ。

 

水俣市の状況

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出典:ニュース記事一覧 | CINRA

 

そして、少々聞き方によってはショッキングな内容を記載する。

水俣市は、未だにチッソなしでは成り立たない町である。

チッソによって前代未聞の公害病に晒され、多くの人々が苦しんだのに、チッソなしではやっていけないのが現実なのである。

私の中学校時代のクラスメートの、約1/3の親はチッソ若しくはその関連会社勤めだった(因みに私の両親は公務員だ)。これが何を意味するのかは言わずもがなであろう。

そして、私の親戚にもチッソの関連会社に勤めている人はいる(岡山県の支社)。

水俣には、今でこそ当時ほどの規模ではないが、私の少年時代には一町内分くらいの大きな範囲に「シャタク」と言われるチッソ社員の社宅が占める地域があった。

勿論、チッソの社員が住むための住宅である。すべて一戸建てだ。

碁盤の目状に全く同じつくりの家が広範囲に渡って建っていて、私の友人も多くそこに住んでいた。今思えば異常な光景だし、異常な街並みだ。一つの市町村の一町内分もある範囲に、一戸建ての社宅が並び立っている・・・。そんなものはあまりないだろう。

「水俣市」という町をある意味象徴するかのような光景だと思う。

チッソの工場も相変わらず大きく、2町内分くらいはありそうな敷地を誇っている。

夜になり周りが暗くなっても、一晩中チッソの工場はガンガン音を立てて稼働していた。それは今もなおそのままだろう。

現在はさすがに有害物質を流しているという事はないだろうが、チッソは確かに存在していて、水俣はそれなしではどうなってしまうか分からない町だ。市の基盤や雇用を支えているのは皮肉にもかつて有害物質を流し世界的な事件を起こした工業会社なのである。

こんな矛盾があるのだろうか。

しかし、これが現実なのである。

 

「MINAMATA」と水俣

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出典:熊本県水俣市|ウーバーイーツ(Uber Eats)の配達の仕事はバイトは出来る?

 

かつてチッソが流した有機水銀が原因で海は死に、魚介が毒された。それを食した人間や犬猫達は大きくその運命を狂わされた。

「MINAMATA」の劇中でも描写されたように、チッソは途中でそれに気付きながらも排流を継続した。余りにも罪深い行いだ。本来なら弁明の余地もないところだろう。

汚染された海は「埋め立て地」とされ、今では綺麗な木々の立ち並ぶ海浜公園になっている。私は少年時代にそこによく遊びに行っていた。広く、キレイなところだ。

本当に水俣は美しくなったのか?

水俣病は何も終わっていないのに?

埋め立てて、ゴミ分別で有名になっても、それは何かが違う。

近年ある首相経験者が公の場で「水俣病は終わった問題」と発言した。何故、それが世間を賑わせる大失言として採りあげられないのだろうか?

正しい歩みをしてきたのか?教育は浸透させられたのか?本当に真実を啓発し続けているのか?

何かが違わないか?

冒頭で、水俣を離れた理由は他にあると述べたが、「水俣病」そのものがどうのではなく、何かから脱却できていないような風土や、ブレてしまっているかのような軸、誰がとかではないが、全体的な集合体としての陰鬱なメンタリティ・・・うまく言い表せない何かにずっと引っかかっていた。やはり、総評として「脱却できていない」そう感じてしまう。

「忘れて、前を向いて歩こう」

そういうことを論じているわけではないし、それは違う。

 

故郷を嫌いになったわけではない。

しかし、とうとう好きにもなれなかった。

「MINAMATA」を観て、今こそ自分にその理由を問いかけたい気持ちになった。

恐らくもう少しで自分の中での答えが出るのではないかと思っている。

私にとっての「MINAMATA」は、そんな映画だった。

 

最後に、監督のアンドリュー・レヴィタス、脚本のデヴィッド・ケスラーをはじめとした製作陣、ジョニー・デップ、真田広之をはじめとした出演者、音楽を手掛けた坂本龍一・・・この映画に関わったすべての方々に心から敬意を表したい。

 

最後の最後に、水俣市はこの映画の後援を拒否していることを付け加えたい。

私が何を言いたいか。それは、敢えて言うまでもないことである。

 

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