迷いに迷った挙句明かす怪談
正直この体験談は、公表するかどうかぎりぎりまで迷いました。
私はファッションブロガー。もしもこのお話を聞いて、「古着を買うのが怖い」と思ってしまう方が現れてしまうといけないと思ったからです。
そう。今回のお話は、古着にまつわる怖い話。
先にお断りしておきますが、古着好き、若しくはこれから手を出したいとお考えの方はここで読むのをやめて頂いた方が良いと思います。
ある、夏の日
もう彼是20年近く前のこと。まだ若かった当時の私は、休みの度に自宅からそう遠く離れていないところにある古着屋に足繁く通っていました。
ショップの名前は伏せますが、現在では古着屋というよりはファストファッションブランドに変貌した全国展開のショップです。
いつも、何か目当てのものがあって探しに行くというよりは膨大な量の古着の中からコンディションやサイズ感が合うものを見つけ、テイストやデザインが好みであるならば買って帰り、コーディネートはそれに沿って考えていくというのが当時のスタンスでした。
その日も普段と同じように、当てもなくそのショップに赴き端から端まで古着を物色。暇つぶしというよりも、そういう時間自体が実に有意義だったのです。
とはいえ、ちゃんと「モノ」を見定めなくてはいけないので、私の表情は綻んでいるというよりも少し厳し目だったのではないかと思います。
近くで同じように物色している男性が不意に私からひょいっと遠ざかったのですが、「いつもよりも顔が怖かっただろうか」とその時は思っていました。
その男性はそそくさと店外に出ていってしまいます。
・・・その時は特に違和感を感じるほどの出来事ではありませんでした。
暫く店内を見て回ったのですがこの日はピンとくるものがなかった為、「収穫なし」として店舗を後にしようとしました。そんな日も往々にしてあるものです。
しかし・・・
くまなくチェックしたはずだった、パンツが陳列してある一角が妙に気になります。
目をやると、一際異彩を放つ気がした一本がパンツラックに置いてありました。
米軍のミリタリーパンツ。
もう一回きちんと見てみると、なんとも良好なコンディションでつやつやとしたミリタリーグリーンの色合いのカーゴパンツ。裏地を確認し、タグを再見するとどうやら実物放出品でした。
明確ではないのですが90年代くらいのものでしょうか。そんなに古い物ではない。
試着する前から、自分のサイズであることはよくわかりました。しかも丈もジャスト目。軍パンは実際の外国の軍の人が穿いていたものですから、短足な日本人である私が丈まで最初からピッタリだという事はあまりありません。
試着はしましたが、もうその時は購入することは決めていました。
サイズがジャストだったというのも勿論ありますが、何よりも惹きつけられる何かを感じたのです。
値付けされていた価格である6,800円を支払い、私は店舗を出ました。
夏も終わりに近づこうとしている8月下旬でしたが、容赦のない日差しが照り付ける厳しい残暑の日でした。
車を停めているところまで2分くらい歩いただけなのに、じわっと汗をかいているのが分かりました。
何か気になる
店舗で試着はしましたが、自宅に帰ってすぐに自分の姿見で再度チェックをしたくなる。私はそういうタイプです。
帰宅しすぐに件(くだん)のパンツを穿いて姿見の前へ。
改めてシルエットの美しさは素晴らしい。当時はスリムストレートのシルエットが全盛の頃でしたが、程よく膨らんだ膝回りからストンとストレートに落ちるシルエットは極めて新鮮で、裾をロールアップすると程よいこなれ感が出ます。
カラーリングも丁度良いミリタリーグリーン。
ホワイトのシャツや短丈のジャケットと合わせたい気持ちになったのをよく覚えています。
「これはいいモノに巡り合えた」
私の気持ちが上がっていたのは言うまでもありません。
その日は、古着で買ったものだという事もあり、他の物とは別にして洗濯機にかけました。洗濯後は部屋干しし、翌日乾いた後に畳んでクローゼットへ。
クローゼットに仕舞った日の夜、私は当時凄まじく多忙だった仕事の疲労感から、いつの間にかリビングのソファで転寝(うたたね)してしまっていました。
ハッと目が覚め、時計に目をやると夜の1時を少し過ぎたところ。
このままではいけない。ちゃんと歯を磨いてコンタクトレンズを取って、ベッドで寝なければ・・・。そう思い身を起こそうとしたのです。
しかし・・・
・・・何か決定的な感覚というわけではありませんでした。
・・・そうではないのですが・・・。気になるのです。クローゼットの中が。
モヤモヤっとするというか・・・。漫画でよく「陰」の雰囲気を現すもやもやとした描写がありますが、そのような感じの雰囲気をクローゼットの中から何となく感じる・・・。
別に何かの確信があったというわけではないので、あまり抵抗なく私はクローゼットを開けました。
・・・何も異変はありません。
疲れているのだろう・・・。最近の忙しさは、全く度を越えていたのです。
そう思い一連のルーティーンを終え、いつものように床に就いたのでした。
職場での異変
あくる日、いつものように出社しました。
当時の私は事務所勤めで、朝から会社の車で出掛けたりすることも多く、その日も早い時間帯から忙(せわ)しく飛び回っていました。
職場の役員は10時過ぎに迎えの車で駐車場に入ってくるのですが、丁度私が車で出ていくときにすれ違っていました。
・・・昼過ぎのことです。
役員が「あんな早い時間に、車の後ろに誰を乗せていたのか」
そう、私に言ってきました。
先述したように、私が車で敷地から出ていくとき、役員が出社する車とすれ違っていたのです。
「・・・」
「いやだな、一人でしたよ。怖いこと、言わないでくださいよ。」
私は役員が冗談でそんなことを言ってきたのだと思い、そう返しました。
「そうか。・・・見間違いかな。」
そう言った後、軽く首を傾げながら役員は役員室に戻っていきました。
その背中を見送るとき、私は何とも言えない不安に襲われたのです。
よくよく考えてみると、そんな類の冗談を言うタイプの人ではないし、戻っていくときの態度に若干違和感を覚えたのです。
・・・ひょっとしたら、本当に何かが後部座席に乗っていたのかもしれない。
私はそう思ったのです。
しかし、その時はまだその謎めいた出来事と、過日古着屋で手に入れたミリタリーパンツの因果関係について考えているわけではありませんでした。
いよいよ来る本格的な異変
その週末は知人と食事の予定が入っており、早速私は件(くだん)のカーゴパンツを穿いて出掛けました。
実際に身に付けて出かけるとその抜群の穿き心地がさらによくわかり、改めて気に入ったことをよく覚えています。
夜に帰宅し、パンツを洗濯機にかけます。
洗濯後リビングと寝室の仕切り付近にハンガーを掛けて部屋干し。その日はそのまま就寝しました。
当時20代だった私は夜中に目が覚めることは滅多になかったのですが、その日はパっと中途覚醒しました。
時計に目をやると1時を少し過ぎたころ。
・・・その日は、自分の足側の付近から何とも嫌な気配を感じました。数日前にクローゼットの中から感じたものと極めて似ています。
そして、全身が金縛りに。
・・・この日は、過日と違い疲労のせいだとは思いませんでした。
先日クローゼットから感じた嫌な感じと、疑惑レベルではあるものの職場で体験した不可解な体験が胸の上で合わさったのです。
「これは、ただ事ではない」
そして、
「もしかして、この古着のパンツになにかあるのだろうか・・・」
そう感じました。
金縛りはなかなか強烈で、目線だけは動き意識もありますがとにかく身体は微動だにしません。
むせかえるような熱帯夜だったこともありますが、全身から嫌な汗が滲み出てきました。
古着のパンツはハンガーに掛かっており自分の目線の先、つまり足元の方向にあります。
明らかにパンツが干してある付近から嫌な気配が充満してきているのが分かりました。
すると、足元付近から
「ビュン、ビュン、ビュン」と、風を切るような音が聞こえてきました。
風の残像のようなものが見えるような気がします。
そもそも私はコンタクトレンズを外すと視力が0.1程度なので、そんなものが視えるわけはないのですが、はっきりと、明確にそれは見えました。
次に、男の唸り声が聞こえます。
「ウー、ウー、ウー」
苦しそうで、切ない声。喉を絞るようにして生み出された声のような気がしました。
さすがに恐怖を覚え、必死に目を閉じます。
目を開けていると、見てはいけないものを見る気がしたのです。
それを目の当たりにして正気を保つ自信がありませんでした。
気が遠くなりそうな恐怖の中、必死に堪え続けました。
どの位そうしていたのか分かりませんが、気が付くと朝日が私の頭の方から差し込んでいました。
額や腕、胸の付近は明らかに大量の発汗があった痕がありました。ベタベタしていて、それは間違いなく明確な現実だったのです。
凄まじい口喝を覚え、キッチンに走りペットボトルのお茶を取り出して流し込むように飲み干しました。
その時やっと、昨夜のまま干してあるカーゴパンツに気が向きました。
何の変哲もなく、昨日のままそれはそこに掛っていました。
異様な雰囲気も感じません。まるで何もなかったかのようでした。
一夜明けて
週が明け、私は気を取り直して仕事にも出ました。
・・・確かめたいこともあったのです。
例の役員に
「先週、私の車の後部座席に人が乗っていたとおっしゃられましたが、どんな人だったでしょうか」
役員は気にするな、自分も何か見間違いをしたのかもしれないとはぐらかすような雰囲気。私が食い下がると、仕事の時は仕事のことだけを考えるようにと叱られる始末で、それ以上追及ができませんでした。
もやもやとした感情に苛まれながら業務をこなしましたが、どこか身が入りません。当たり前です。あんなことがあったのだから。
夕方仕事を終えた私は、「その道」にやや明るい知合いに思い切って連絡を取ってみることにしました。
電話に出た知り合いは
「何が原因なのかは分からないけれど、良くない感じはする。最近何か変った事はなかったか」
と聞いてきました。
私は例のミリタリーパンツのことを話しましたが、確信までは持てない様子。そもそも確実な「力」があるというほどの人というわけではないのです。
兎に角気になるならそのパンツは処分したほうが良いと言い残し知り合いは電話を切りました。
・・・心なしか、早く通話を終えたがっているような気もしました。
さて、どうしたものか・・・決断がつかないまま帰路についたのですが、パンツ自体は気に入っているし、ただただ処分すると言ってもいい方法が思いつきませんでした。
今晩も同じようなことが起きるとも限らないし、そもそも原因が「それ」にあるとも限りません。
取り敢えずその晩は普通に過ごして明日また考えることにしたのです。
・・・しかし、その曖昧な判断が痛恨の間違いであったことをその日の深夜思い知ることになるのです・・・。
本当の恐怖
その年の夏は例年よりも更に酷暑で、その日の夜も汗ばむような熱帯夜でした。
古着のミリタリーパンツは畳んで簡易な袋に入れ、クローゼットの奥にしまい込んであります。何故そんな中途半端な状態でその晩を過ごしたのか、今となっては後悔しかありません・・・。
普段と変わらないくらいの時間に就寝したのですが、中途覚醒した私。
時間は・・・やはり1時過ぎでした。
もう、その瞬間に様々な自分の判断を後悔していましたが、まさしく後にたたずというやつです。
その日は金縛りにはあいませんでした。
ただ・・・
「ゴソゴソ」「ゴソゴソ」
その音は明らかにクローゼットの奥から聞こえてきます。
前身の毛穴から、今まで発したことのないような汗が大量に吹き出し、例え話ではなく本当に身の毛がよだつ感覚に襲われました。
脊椎にぞわぞわっと悪寒が走ります。
間違いない。クローゼットの中に何かがいる。
とても、クローゼットを開けて確かめる気にはなりませんでした。
そんな勇気のある人間がいるのなら、その面を拝んでみたいくらいです。
私はタオルケットを頭から被り、ただただガタガタと震えていました。
その時。
クローゼットが「バターン」と開いた音がしたのです。
絶句。
こんなことがあるのだろうか。
皆さんは夢なのかどうなのかと確かめるために自分の頬っぺたを抓ったことがありますか?
私はこの時、一生懸命自分の頬っぺたを抓っていました。夢であってほしいと願いながら。
残念ながらその時感じた、頬っぺたがぎゅうっとつままれる痛みは今起きている出来事が紛れもない現実であることを教えてくれ、同時に絶望の二文字を非情にも突き付けてきました。
開いたクローゼットから出てきた「何か」は足音を立てながら部屋中をぐるぐる回っているようです。
・・・こんな恐怖があるのだろうか・・・。
子供の頃、痛かったり怖かったりといった理由で泣いたことはありますが、そんなものはいい大人になった時分から経験がありませんでした。
しかしまさにその時、気が遠くなるような恐怖に私の両目からは涙が溢れていたと思います。
・・・暫くすると足音が止みました。
暫くとはいっても、数十分は経過していたと思います。
流石の私も覚悟を決め、頭から被っていたタオルケットを少しだけ捲り周囲の状況を確かめました。
・・・絵に描いたような静寂。
いつもの自分の部屋です。
よくホラードラマやらで、一安心した後にワっと幽霊が出てきて気絶して、気が付いたら朝だった・・・なんてシーンを見かけますが、そんなことはなく、それから眠れずに朝を迎える間、何も起きることはありませんでした・・・。
自嘲気味に、「あんなものはやはり演出だ」と呟いたのでした。
古着に篭った念
次の日有給休暇を取った私は、近くの神社に古着のパンツを持っていきお焚きあげをしてもらいました。
神社の神主もそれがいわくつきのものなのか等はよくわかっていない様子でしたが、自分では確信がありました。
それから何か不可思議な出来事が起こったという事はありません。結局「あれ」が何だったのか等、詳細な真実は不透明なままです。
しかし、米軍の実物放出品だったパンツなので、何かの念が篭っていたのではないかと思っています。
思えば、古着屋で私に対して不可解なリアクションをした他の客がいましたが、何かを感じ取っていたのかもしれないと今となっては思いますし、そもそも私自身がパンツに呼び寄せられたのかもしれないとさえ感じます。
これに懲りて古着や軍物を買わなくなった・・・という事はなく、今もその双方が好きでたまに購入します。
だから、心の底ではいつまた似たような出来事が起こるかもしれないと密かに思っているのです。
人の「念」は物に宿ってしまうことが本当にあるのかもしれません。
古着は誰かが使っていたものだし、軍放出品のミリタリーアイテムは実際の軍の現場で使用されていたもの。
よく考えれば今回のようなことが起きてしまうこともさもありなんなのです。
皆さんも古着を購入される際はくれぐれもご注意ください。
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