久々に仲間と会う
少し前のことだが、唐突に大学時代の悪友から連絡があった。
「子供が熊本の大学に入学するから、引っ越しで来ている。今から出てこい。昔、自分たちが熊本市で住んでいた界隈だ。」
・・・友人Kはいつもそうだ。
こちらの都合はそっちのけで、行き当たりばったり。極めて適当な性格なのだ。
・・・でも、昔からそんなところが好きだ。
そりゃ、少しだけイラッとするけれど、すぐにそれは治まり、気づけばKのペースで動く。不思議とそれが心地よい。
私達も40代になったが、ちっとも変っていない。悪く言えば成長していない。良く言えば擦れていない。あの頃と同じなのだ。
久々に会った瞬間に「お前は全然変わらん。何してんの？」そうKは言ってきた。確かに外見は私の方が少しだけ若々しいと思うが、中身に関してはその言葉をそのまま返したかった。
大学時代の私達
私達は熊本市内の私立大学で友達になった。
実はKは一浪しているから一つ年上なのだが、「そんなのは関係ない。今日から同等の友達だ。」と初対面の時に言われたのを鮮明に覚えている。
そういう、通常だと赤面してしまうような言葉を真顔で言う性格も好きなところだ。私は到底そんなタイプではない。
何となく集まった、私を入れた5人の仲間がいたが、リーダー的な存在は間違いなくKだった。行動力、優しさ、リーダーシップ。様々な面で最も秀でていて、いつも私達を引っ張ってくれた。ひねくれていて、臆病で不器用な私は、ひょっとするとKに対して憧れにも似た感情を抱いていたのかもしれない。
Kは女性にも抜群にモテた。多くの女性と絶え間なく付き合っていたが、中途半端なことをしている所を（余り）見たことがない。しかし、その理由は傍にいた私達としては納得だった。顔も美形だったが、何よりも頼り甲斐があり、大胆で快活だった。
大喧嘩したこともあるが嫌いになったことはない。
私達は当時、会っても、集まっても、飲みに行っても、何をしていても、大体女と服の話しかしていなかったように思う。明日のこと等深く考えずに、面白可笑しく、お気楽に毎日を過ごしていた。とても楽しい時代だった。
話したこと
あの頃からもう20年も経っている。
待ち合わせたのは、私達が大学生時代を過ごした辺りのコンビニの駐車場。周りの景色は随分変わってしまったけれど、良い時代を過ごした辺りで話をしただけで何だか嬉しかった。
・・・私達を取り巻く環境は、当時とは随分変わった。
あの頃は女と服の話ばかりしていたけれど、女の話も服の話も全然しなかった。
Kのお父さんは昨年癌で亡くなった。お母さんもすい臓がんで闘病中らしい。
他の仲間・Jのお父さんも昨年癌で亡くなっている。お母さんは認知症を患っている。
・・・私達はもうそういう歳なのだ。明日のこと等考えずにバカ騒ぎばかりしていたあの頃とはだいぶん違う。
中間管理職として上下の板挟みで揺れ、良いことの数倍嫌なことがある毎日。その中で我慢しながら必死に荒波の中を泳いでいる。笑われたり、蔑まれたり。悔しくて石ころを蹴飛ばしてしまうことさえもある。いや、そういう自分こそその社会の中の一部で、他者に対してそういった思いを抱かせてしまっている可能性も大いにある。
・・・私達はもうそういう歳なのだ。大人の世界のこと等知らずに朝まで大笑いしていたあの頃とは違う。
「毎日必死で大人のふりをしているけれど、中身はそんなに変わらないんじゃないか。だからきついんだ。むしろ。」
Kは言った。いつもこうだ。適当なくせに、言う事は的を射ている事が多い。
・・・確かにそうかも知れない。
少しだけ胸が熱くなった。
また、そのうち
ひと時を終え、別れる。
私達はそれぞれ忙しい。また、いつゆっくりとした時間が過ごせるかは分からない。
センチメンタルな話ばかりしたような気がするが、不思議と元気が出た。
最近特に社会の矛盾や不条理を感じることが多く辟易としていたが、あの頃とあまり変わり映えしないKと会って、ホッとしたのかもしれない。
そして、実は良くも悪くも学生時代とあまり大きく自分が変わってはいないことにも気付かされたのかもしれない。自分自身を見誤っていたかも知れない事に気付かされたのだ。
20年経って、語る話の内容は随分変わってしまったけれど、私達の間にはあの頃と変わらない空気が流れていたような気がする。
「また、そのうち。」
今度は昔のようなバカみたいな話ばかりをして夜明けを迎えられれば最高だと思った。そんな日が来るまで、また頑張らなければならない。
